後悔と後講釈 --- ハード・ライト・エッジ

もうこの株はダメだ、と諦めて売った翌日、いきなり株価が大幅上昇することがある。まるで私が手放すのを待っていたようなタイミングだから、まことに気分が悪くなる。例えば昨日、マーケットは4%を超えるラリーを展開したが、多くのトレーダーはこの一大ラリーに乗ることができず歯痒い思いをした。

売るのが早すぎた。お陰で5000ドル儲けそこねた。やはりあそこが底だったのだ。買っておけば良かった、と株には後悔がつきものだが、逃したチャンスをふり返る時ある問題が起きる。投資心理の研究で知られるブレット・スティンバーガー氏は、こんな事を指摘している。

この大きな動きはトレードのチャンスになった筈だ、とトレーダーたちは後悔する。この「トレードのチャンスになった筈だ」、というのは結果論であり、結果論に基づいた考えを進めていくと、全てのトレード・チャンスは事前に予測できるという極端な結論に達してしまう。逃したトレードをふり返る場合、トレーダー達は考えられる全ての要素を検討するのではなく、目につくチャートパターンやニュースなどを拾って、ここが買い場だった、ここが売りのポイントだったと都合の良い結論を引き出す。更に調査で分かっていることは、でたらめなチャート・パターンを何度も何度もトレーダーに見せると、最終的にトレーダーは意味の無いチャート・パターンから意味を見出すことになる。

これを読んだら、「罫線屋、罫線引き引き足をだし」、という言葉を思い出した。さて、スティンバーガー氏のコメントを、昨日の大上昇にあてはめてみたいと思う。



(上はS&P500指数の日足チャート)

マーケットは、下降する短期トレンドライン(1)を既に突破していた。ストキャスティクス(3)も上向きだから、マーケットは上昇の勢いを示している。こんな状況だったのだから、以前のサポートライン(2)を突破した時点で、直ぐに買い出動することができた。

正にスティンバーガー氏が言うように、後講釈は都合の良い部分だけを探す結果となり、つじつまが合わない部分は完全に無視してしまう。例えば、上のチャートには移動平均線が一本も入っていないが、言うまでもなく、入れてしまうとつじつまが合わなくなるからだ。



一般的に使われている四本の移動平均線、20日、50日、100日、そして200日移動平均線を入れてみると、全く違った様子が見えてくる。Aの冴えないローソク足で分かるように、S&P500指数は50日移動平均線の突破に難航し、ほぼ安値で終了となった。言い換えると、買い手の力不足で50日移動平均線がレジスタンスになったわけだから、明日は売ってみようと結論することができる。更に、たとえこの移動平均線を乗り越えたとしても、直ぐ上には100日移動平均線が走っているから買い難い状況だ。

ハード・ライト・エッジ(Hard Right Edge)という言葉がある。右端は難しいという意味だが、チャートを使う目的は左側(過去)を説明するためではなく、これから先の右端がどうなるかを予測するためだ。あそこで買えた筈だ、何かシグナルを見落としていた筈だ、とふり返ってみることは無意味なことではない。しかし大切な事は、スティンバーガー氏が指摘している、この事だと思う。

全ての動きはトレードのチャンスではない。私達の知り得る事には限りがあり、知ることが不可能な要素が存在する。トレード成功の鍵は、忍耐を持って私達が知っている事を有効に利用することであり、不確かな要素を受け入れる姿勢を持つことだ。


(参照したサイト: Hindsight Bias and Regret in Trading)

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